Kawa-Law通信

2014.05.08更新

 報道各社によると、神奈川県警察本部は、3Dプリンタを使って製造した殺傷能力のある銃を所持していたとして、同県内の大学職員の男を銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)違反で逮捕したそうです。

 昨年、弁護士ドットコム・トピックス編集部からの依頼でコメントした、
「3Dプリンタで製造できる『本物の銃』 日本に規制する法律はあるか?」という記事
http://www.bengo4.com/topics/449/
 
が検索エンジンでヒットしたらしく、今朝ほどから、文化放送ラジオをはじめ、テレビ、新聞等何社かからコメントを求められています。

 この報道に接した時、上記の記事にコメントを寄せた時点では私が想定していなかった事態が起きたことに驚く反面、インターネット社会では、情報の流れは世界共通で止めようがなく、世界のどこかの国で起きていることは、やがて必ず日本にも波及してくるのだという思いを強くしました。

 銃器の密造自体は決して目新しいことではなく、これまでにも、暴力団関係者が直接、間接に関わっていた事例もありました。しかし、これまでの密造けん銃や改造けん銃は、工作機械を用いて金属を加工して作られており、それなりの設備と熟練が必要でしたし、また、そのような機材や人材を調達するには、一定の資金力がなければ困難でした。
 ところが、安価な3Dプリンタが登場したことで、インターネットから設計図をダウンロードすれば、ほぼ全部が樹脂製の部品で構成された銃器(但し、発射の際に銃弾の雷管に衝撃を与える部品である「撃針」は、金属製のものを用いる必要があるとのこと)が製造できるようになり、それが殺傷能力を有することも知れ渡ってしまいました。
 銃器の製造に関するハードルは、資金面でも、また技術的にも、相当低くなったと言わざるを得ず、今後、暴力団関係者や、あるいは、暴力団とは無関係な個人が、同じような方法でけん銃を製造する事案が発生するかも知れません(撃針や銃弾の調達については、想像の限りではありませんが)。

 そうすると、近いうちに、3Dプリンタを使って銃器を製造することや、銃器の製造に関する情報を規制することができないかという議論が起きてくることが予想されます。
 考えられる方法論としては二種類あり、一つは、3Dプリンタそのものに銃器の部品が製造できないような技術的な規制を導入する方法、もう一つは、銃器の製造につながる情報の流通や所持を規制する方法です。

 前者の例としては、複写機やスキャナには、紙幣をコピーしようとすると警告が出たり、印刷ができなくするような機能が組み込まれているようです。しかし、銃器の設計図や部品は多様なので、3Dプリンタに、ある特定の形状の立体物の成型を拒否するようなシステムを組み込んでも、実効ある規制ができるかはよくわかりません

 後者については、インターネットから銃器の設計図をダウンロードしたり、銃器の部品に関する情報の所持を禁止し、その違反に対して刑罰を科することが考えられます。
 しかし、銃器の製造については、武器等製造法において規制が行われており、実際にダウンロードしたデータを使って銃を製造すれば、3年以上の有期懲役に処せられます。また、同法は、未遂罪も処罰の対象としていますので、いったん製造に着手すれば、銃が完成しなくても処罰を受けることになります。けん銃等の所持は銃刀法違反となりますが、その法定刑は1年以上10年以下の懲役ですから、銃器を製造した場合の方が重い罪に問われることとなります。
 このように、既に、ある程度広範囲で強力な規制がありながら、その実効性について十分検討することのないまま、さらに、3Dプリンタで出力できるような銃器の部品に関する情報を所持しているというだけで処罰の対象に含めようというのは、処罰範囲の無限定な拡大を招くとの批判を免れないでしょう。

 また、銃器の製造につながる情報の流通や所持を規制の対象にしようとすれば、国家権力が情報の流通を監視することにつながり、必然的に、自由な情報流通や通信の秘密との緊張関係を生じてきます。この点は、先ごろ問題となった違法ダウンロードの規制の議論や、近々始まるとされる児童ポルノの単純所持の規制の議論とも、一定の共通性が認められるものです。
 法務省は現在、「取調べの可視化」とバーター的に、通信傍受の範囲の拡大や会話傍受、いわゆる司法取引等、「新しい捜査手法」の導入を検討しているとのことですが、銃規制の必要性について強硬な異論を唱える向きはほとんどないでしょうから、この種の事案が摘発されると、要は国民の安心安全に関わる問題であるとして、通信傍受の拡大等に向けた議論が一気に進んでいくおそれはないかと、危惧しています。

 やや脱線気味な部分もありますが、オンエアの時間内にコメントできなかった点も含めて、まとめてみました。

投稿者: 川口法律事務所

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